世の中に、これまでなかった「風」を生み出す。

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革新的な商品が世に出る時。その裏側にはいつも、熱い想いを持った開発者がいる。今回クローズアップするのは、累計35万台以上を売り上げている革新的な扇風機『カモメファン』の発案者、中込光輝氏(株式会社ドウシシャ)だ。彼がどのように、従来の扇風機にはなかった発想をひらめいたのか。起案から販売に至るまでの開発ストーリーを聞いた。 

カモメファン開発の経緯を教えてください。

商品の開発が始まった当時、夏物家電の市場に関していうと、特に年配の方は体調を気にして扇風機やエアコンを好まない方が多かったです。でも、そこをひっくり返すことができれば、ものすごく大きい市場がある。そこを狙おうということで、カモメファンの開発が始まりました。開発をすすめる上で、最初にぶつかった壁は音の大きさです。風量を増やすと、音が大きくなってしまう。何回試作をしてもうまくいかず、どうしようかと悩んでいたある日のことでした。ふとテレビに船舶のプロペラを作っている企業が出ているのを見つけたのです。そこは、世界トップクラスのシェアと技術を持つ、ナカシマプロペラという会社でした。船のプロペラって実はものすごい多くの要望があることを、その番組で初めて知りました。例えば荷物を運ぶ船はプロペラ音の大きさを抑えるよりも省エネを求められたり、人を運ぶ船はプロペラ音を静かにしたり。その話を聞いた時、「回る原理だったら扇風機も一緒じゃないか!」ってひらめいたのです。すぐその会社に連絡をして、会いに行きました。ところが、テーマは面白いが開発要員の確保ができないと困っていました。そのとき、担当の方から、通常のベテランのエンジニア中心のチームではなく、若手のメンバーも入れ柔軟な発想で開発ができるチームで取り組むというアイデアが示され、カモメファンの共同開発がスタートしたのです。

こだわったところを教えてください。

当初は、いかに風量を確保しながら音を小さくできるかを考えていました。でも、最初の打合せでナカシマプロペラの担当者の方から「中込さんは、どんな風がつくりたいんですか?」って聞かれたのです。そこで初めて、「あ、風の質って考えたことないな」と、気がつきました。そこからは、風速計を持ってあらゆるところで実験に行きました。例えば、公園だったり、海沿いだったり、色々なところに行きましたね。そうすると、風が気持ちいいところって実は風速がものすごく弱い。扇風機だと、風が吹いているかどうかわからないくらいの風速でも十分心地いい。その時に、これまでの扇風機の考え方ではいけない事に気づきました。それまでは、質より量という考え方で、とにかく風を出そう。かつ、音も静かにしようとしていました。でも、本当に気持ちのいい風って、風が来ているかどうかわからないくらい肌当たりがやわらかいけど、涼しさを感じるということがわかりました。だって、例えば高原で寝そべっている時にそよぐ風が嫌な人なんていないじゃないですか。そこから、「風の質」にこだわるようになりました。

「気持ちのいい風」をどのように実現したのでしょうか。

実際、扇風機の風って長時間浴びていると疲れてしまいますよね。子どもの頃、扇風機をつけっぱなしで寝ていたら、親に怒られた経験がある人も多いのではないでしょうか。それって実は、例えるなら空気を羽根で無理やりちぎって前に飛ばしているような状態。体に風の塊がパシパシ当たる感じといいますか。でも、本当に気持ちのいい風って、気がつかないくらいかすかな風でも十分気持ちよくて、なおかつ長い時間当たっていても疲れない。そしてもちろん、音も静か。それがカモメファンの目指す姿でした。そこからは、ナカシマプロペラの方と共に、あらゆる考え方を1から見直しました。例えば、通常の扇風機は、羽が3〜4枚。それを7枚9枚11枚…と色々な枚数で作って、あらゆる角度や厚みを試しました。また、プロペラの形を考える際に担当者の方に提案を頂いたのが商品名にもあるカモメの羽です。やはり自然界に勝るものはなく、一番静かで効率よく風を前に送れるのは「カモメの羽」でした。大陸を行き来する渡り鳥であるカモメの羽は、身体に極力負担をかけないために、非常に効率的に風をまとう形状をしています。それが、今回探していた理想の羽根とぴったり一致したのです。さらに2015年からは、形状だけでなく素材にもこだわっています。しなやかに曲がる素材を利用することで、さらにやわらかい風を作ることに成功しました。カモメファンは現在も、日々改良を重ねながらバージョンアップを続けています。

特に苦労したことはなんですか?

一番大変だったのは、商品を世に出す前に社内を説得することでした。もちろん、私ひとりでつくって売るわけではありません。私がつくった商品を、販売する営業の社員がいます。普通、新たな商品を企画して販売する時には、類似商品の価格帯や売れ行きを参考にします。でも、2万円以上する扇風機なんて会社としても初挑戦でした。初めてのものを世に出そうとした時って、誰にも評価なんてできません。とはいっても、実際にお客さまに売るのは営業マンなので「本当に売れるの?風の質がいいのはわかるけど、誰が買ってくれるの?」と何度も追求されました。

周囲の反発を、どう乗り越えたのでしょうか。

周囲からの厳しい声もありましたが、私の想いを聞いた事業本部長が「これは絶対売れる!」と、後押ししてくれました。いま振り返ると、事業本部長が応援してくれたのも、私が一瞬たりとも商品のことを疑っていなかったからじゃないかと思います。昔、ヒット商品をつくった先輩に質問をしたことがあるんです。「ぶっちゃけ、売れると思ってましたか?」と。そしたら、「馬鹿野郎!担当者が売れるって思わなかったら絶対に売れない。中途半端な気持ちだと絶対に売れない。そうじゃないなら、やらないほうがいい」。と言われました。それ以来、自分のつくる商品を疑ったことはありません。その熱意があったからこそ、上司や営業の人たちを動かすことができたのだと思います。

なぜそこまで熱意を持ってやれるのですか?

私はデザイン家電を世の中に広めるためにこの会社に入りました。デザインって、見た目を整える意味合いはもちろんありますが、必ずメッセージが隠されています。例えば、丸くしたほうが使いやすいとか、ボタンはここにあったほうが使いやすいとか、そういう配慮がされている。それを触りながら一個一個紐解いていく作業がすごく好きでした。入社後に、配属する部署を決める懇親会みたいなものがあるのですが、そこでも「デザイン家電の部署に入れなければ、この会社に入った意味がない!」という旨のレポートを書いて、入りたい部署の部長に突きつけました(笑)。そういう想いが背景にあるので、デザイン家電の企画は苦じゃありません。開発の過程もすべて楽しんでやれています。

モチベーションを継続させるコツはありますか?

最近では、ネットで購入して頂いた方のレビューとかを見ることができるじゃないですか。その人たちの反応を見て、「あぁ自分のやっていることって世の中に対して繋がっているんだ」という実感が持てるのも大きいです。例えば、作家さんから面白いレビューを頂いたことがあります。「書き物をしているときに普通の扇風機ではページがパラパラめくれてしまう。でも、カモメファンは風をちゃんと感じるのに風質が柔らかいのでページがめくれず快適です」といった感想でした。そういうリアルな反応を聞いていると、モチベーションが途切れる瞬間なんてなくなりますね。

新規事業を成功させる秘訣とは。

どんな商品も、スムーズに行くことのほうが少ないと思います。どこかで聞いた話なのですが、飛行機って空を飛ぶ時にものすごい空気抵抗を受けます。でも、その向かい風がないと浮かぶことができない。圧力を受けながら、猛スピードで前に進むことで初めて高く飛び立つことができる。これって、商品や企画も同じだと思います。誰にも意見されないで、サラサラっていった商品は意外と売れません。10人いる中で9人からダメだと言われても、1人が「欲しい!」って思える商品がヒットしたりします。だから、周囲から反発があると私は逆に燃えますね(笑)。
あと、どれだけ魅力的な商品でも、つくったら終わりではありません。これは、うちの会社の会長の言葉でもありますが、自分のつくった商品の可能性をとことん信じて、スターにのしあげるつもりで考える。生み出すまでは親でも、世に出た後はまさに芸能プロデューサーです。色々な広報活動を行ったり、こういった場でお話させていただいたり。すべて、商品の魅力をいかに世の中に広げるかを考えているからこそなのです。カモメファンは、自分にとって子どもみたいな存在。それを、いかにスターにするか。それを考えつづけて、日々開発を行っています。

中込 光輝(Nakagomi Koki)
株式会社 ドウシシャ 家電事業部 家電商品ディビジョン アシスタントマネージャー
1989年生まれ。27歳。株式会社ドウシシャに入社後、ハウスウェア営業部にて営業を経験。その後は、家電事業部 家電商品ディビジョンにてカモメファン等、扇風機の開発に従事している。
公式サイト:http://www.d-designing.com/kamomefan/

TEXT BY 新谷 建人(株式会社パラドックス)

PHOTOGRAPHY BY 今井 裕治